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「マイケル・ジャクソンに学ぶ道具としての知財制度」 ◆文:西郷義美(西郷国際特許事務所所長・元弁理士会副会長・国際活動部門総監)|

Michael Jackson – Smooth Criminal Anti-Gravity Lean

M.Jackson  Anti-Gravity Lean (1)

写真を見てもらいたい。

角度にして約45度はあろうか。身体を傾斜させたダンサーが数名、真っ直ぐに前傾している写真だ。この写真を見て、「これだ、これだ!」という人がいる反面、「なんだ⁉ この写真は、この姿勢は?」と不思議がる人もいよう。数名のダンサーの中央にいる白服ダンサーは、かのマイケル・ジャクソンである。

『Smooth Criminal』という楽曲で披露され、いわゆる『あり得ないほどの前傾姿勢』として、たいへん話題になったパフォーマンス、反重力「アンチ・グラヴィティ (Anti-Gravity)」である。マイケル・ジャクソンの音楽ビデオ「スムース・クリミナル (Smooth Criminal)」や映画「ムーンウォーカー(Michael Jackson Moonwalker)」で垣間見ることができる。

身体を45度まで前傾させ、また戻る、という一見現実ではありえない動きは、ムーンウォークで度肝を抜いたマイケルならば、もしや・・・と世界を騒然とさせた。同時に、このパフォーマンスについてのいろいろな憶測が飛んだ。「マイケル・ジャクソンほどの身体の持ち主ならできる」、あるいは「ワイヤーで釣っているのだよ」という穿った見方もあった。

 

実は、この創意工夫は、1992年に、マイケル・ジャクソンの発明として米国で特許出願され、その翌年に米国で特許権として権利化された。米国特許の発明の名称は「Method and means for creating anti-gravity illusion」(「反重力的な錯覚を創出するための器具および方法」)。USP 5,255,452。自己の楽曲のみならずアイデアを保護するという、マイケル・ジャクソンの知財に対する考えが読み取れる特許権である。

米国特許公報・USP 5,255,452 

マイケル・ジャクソン 特許

内容はこうだ。実は、履いている靴の靴底のかかとに作ったV字状の切れ込みの凹みに、ステージの床から、一時的に突出させたボルトの頭をはめ込んで、靴を固定しているのである。これをステージ上で実演する際には、薄暗がりの状況で、花火やライトを点滅させるなど、観客の気を逸らした上で、即座にボルトを出し入れするので、観客は全く幻想の世界を見たとしか思えなくなる。

さすがにマイケルは、ダンスのみならず仕掛けにおいても、素晴らしい演技派だったというワケだ。

 

さてここで、私が強調し、皆様に着目して頂きたい点は、ひとかどの人物に成る、あるいは会社を成功させるひと人は、やはり創意工夫に長けており、知財制度などの有効な武器をフルに活用しているという点である。

 

「二股ソケット」を作ったパナソニックの松下幸之助氏、「シャープペンシル」を作ったシャープの早川徳次氏、そして「インスタントラーメン」の日清食品の安藤百福氏など然りである。よく言われるように、人間と猿の違いは、「道具」を使いこなしているかどうかにある。この伝で行けば、金持ちと貧乏人の違いは、「知財制度」を自分の武器として使いこなしているかにある、とも言えよう。

 

では、このマイケルの米国特許が、アメリカで取れたからといって、日本でも(独占的に)使えるかというと、それはダメなのだ。逆に、日本で特許を取ったものをアメリカでも(独占的に)使えるかというと、それもやっぱりできない。一般に、ある国の法律はその国だけで有効で、他国には及ばない(属地主義)。知財権も例外ではない。アメリカの法律で成立した知財権は、アメリカ以外では通用しないのである。

近年、中小企業においても企業を取り巻く環境がグローバル化し、製造拠点の海外シフトや、海外市場の開拓傾向が進んでいる。そこで、海外での模倣品や技術流出が増加し、外国で知財を保護する必要性が増大した。ところが、中小企業の多くは、人手不足が深刻で、且つ知財は内容も複雑で手つかずの状態にある。このまま、やっかいだと放置していると、食われてしまう。

 

さて、外国への特許出願は、大別して、2つの出願方法がある。直接各国に出願をする”パリルート出願”と、国際出願経由で各国へ移行する”PCTルート出願”だ。PCT出願のメリットは(パリ出願と比較し)以下の3点である。

 その国で特許を取るべきか(金を払うべきか)の考慮時間が、1年半プラスされる。パリ出願では、優先権が1年間だが、PCTではさらに1年半プラスされ、合計2年半(30カ月)ある。

 手間が軽減するので、費用が安くなる。PCTでは、PCT出願書類を、日本語で日本の特許庁に、一通出すだけ。これでPCT加盟国すべての国(現在、148ヵ国)に、とりあえず仮の出願をした扱いを受ける(出願日の確保)。

 特許が取れそうか、の審査官の見解付き国際調査結果をもらえる。これを検討し、手続続行か(金を払うか否かを)考慮できる。

 

だが、PCTも良いことばかりではない。 デメリットになり得る点も以下の通りである。

1 PCTは長い保留期間が特徴だが、逆に言えば、この期間は特許化できない期間と化す。時間をうまく使わないと、不利になる場合もある。

 最終的な出願費用はPCTの分だけ上乗せになるので、当初から権利化を望む場合は、パリ出願の方が安くなる場合もある。

 権利を取得したい国が少ない場合(2~3カ国以下)は、パリ出願のほうが安い。

 

その他、外国出願の注意点としては、

1 出願時に狙った権利と最終的に取得した権利がズレてくることに注意する。そんなバカな、と思うだろうが、実際に起こりうるのだ。現に複数の大手企業であった。大手企業でさえチェックが十分機能しないことがある。

2 外国出願費用における翻訳代は高額になるので、複数の出願を纏めたり、且つ不要部分はカットしてスリムにし、翻訳費用を安くする。

 外国出願に取りかかる前に再度、先願がないか調査することも有意義だ。調査上のタイムラグ克服のためである。

 

知財制度は複雑である。複雑故に、これを縦横無尽に駆使できれば、競合他社を圧倒することができる。大差をつけうる。それゆえ、研鑽を重ね「知財IQ」の向上に努力することが、貴社の未来を輝かしいものとする。

 

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西郷義美 西郷国際特許事務所 (2)

西郷義美(さいごう・よしみ)…1969 年 大同大学工学部機械工学科卒業。1969 年-1975 年 Omark Japan Inc.(米国日本支社)。1975 年-1977 年 祐川国際特許事務所。1976 年 10 月 西郷国際特許事務所を創設、現在に至る。

《公職》2008 年 04 月-2009 年 03 月 弁理士会副会長、(国際活動部門総監)

《資格》1975 年 弁理士国家試験合格(登録第8005号)・2003 年 特定侵害訴訟代理試験合格、訴訟代理資格登録。

《著作》『サービスマーク入門』。商標関連書籍。発明協会刊 / 『知財 IQ」をみがけ』。特許関連書籍。日刊工業新聞社刊

西郷国際特許事務所

〒101-0052 東京都千代田区神田小川町2丁目8番地 西郷特許ビル

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